従前の相続時精算課税制度と暦年課税制度の内容の比較と、新制度についてメリット・デメリットを理解した上でどういう場合は使ったほうがよくて、どういう場合は使わないほうがいいのか解説していきます。
相続税の基礎
従前の相続時精算課税制度の概要についてお伝えしていこうと思いますが、相続時精算課税制度は生前贈与の一種ですが生前贈与を理解する ためには相続税の仕組みを理解しておく必要があります、そこでまず相続税の仕組み から解説していきます。
相続税を算出するには課税総額をまず出します。
課税総額-取得した財産の総額-負(マイナスの)の財産-基礎控除=「課税額」
EX)相続人が配偶者と子供2人で、取得した財産の総額が2億2千万円でマイナスの財産が2千万円の場合
2億2千万円-2千万円-基礎控除【3000万円+600万円×3=4800万円】=1億5200万円
これを法定相続分の率で切り分け配偶者1/2となるので7600万円
これに対応した税率と控除額は1億円以下なので税率が30%なので控除額が700万円です。従って相続税額は1580万円となります。子供たちの法定相続割合は各1/4で3800万円となり、これに対応した税率と控除額は5000万円以下なので税率が20% 控除額が200万円ですこれを計算すると560万円になるので
相続税の総額は1580万円+560万円+560万円=2700万円
以上が相続税の計算になります。
生前贈与
相続財産からマイナスの財産を差し引いた額が相続税の基本総額となりますが、その額を小さくして相続税の節税のために行うのが生前贈与になります。相続時精算課税制度を理解するために生前 贈与のベースとなる 暦年贈与の理解も欠かせないので暦年贈与から解説していきます。
暦年贈与(暦年課税制度)
相続は人が亡くなった時に 財産が移転するものですが暦年贈与は生前に財産を移転する制度で年間110万円 までだったら 非課税になるという制度ですただし110万円を超えると 贈与税がかかります 贈与税は一般税率と特例税率(祖父母など直系尊属から贈与を受けた場合に適用;財産に対する税率が優遇されている)2種類の税率に区分されます。
3000万円以下の場合一般税率は50%控除額が250万円となり、相続税では税率15%控除額が50万円となることから、財産移転は 贈与税の方が税金が高く小さな額の財産移転であれば相続税の方が税金が高くなる場合があります。課税枠の110万円や低い税率の贈与額で贈与して相続の時に相続財産が少なくなることで相続税が節税できます。
これが暦年贈与です。
従前の相続時精算課税制度
60歳以上の父母また祖父母などから18歳以上の子また孫 などに対し財産を贈与した場合において選択できる制度です。相続時精算課税制度を使うと2500万円までは 贈与税が非課税で贈与できます2500万円を超えた部分は一律で税率が20%です。
ここまで聞くととても良さそうな精度に聞こえますが、ほとんど使ってる人がいません。
相続時精算課税制度を使って 贈与した財産は2500万円まで贈与税が非課税と言いましたが 節税になるかというと 節税には全くなりません確かに贈与税は非課税になるのですが相続時生産課税制度を使って贈与した財産は相続税を計算する際、相続財産に全て足し合わせて計算をする必要があるからです 贈与時には2500万円までは贈与税は取らないけど相続時には全額相続税が課税される(税金の支払いを先送りにする制度)ということですなので全く節税にはならないということですしかもこの相続時精算課税制度は一度使ってしまうと暦年贈与に戻ることができないのも特徴です。純粋に控除され節税に成るという分けではなく、単に贈与時に控除されるだけでありしかもこの贈与額については全額相続財産委持ち戻して相続税を計算することになります。
従って、相続税を節税したい人からするととても 使い勝手の悪い精度だったので、相続時精算課税制度を使わないという人が多かったのです。
令和5年の税制改正大綱で暦年贈与と相続 時精算課税制度の内容
暦年贈与の3年以内の持ち戻しが、7年以内の持ち戻しに変更されるということです。この変更があるとせっかく生前贈与しても相続財産に持ち戻されてしまうリスクがあり、贈与者が高齢になっている時は持ち戻しになることも視野に贈与を行う必要があります。つまり 暦年贈与に関しては使いづらくなってしまいました。
改正後の相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、相続時精算課税選択届出書を提出した贈与者と受贈者間の贈与財産が累計2500万円(特別控除)になるまでは贈与税がかかりません。一方で、累計が2500万円を超えた場合は超えた部分に対して一律20%の贈与税がかかります。
令和6年1月1日以後に行う贈与に関しては110万円の基礎控除が設けられることになりました 。基礎控除が設けられると年間110万円に関しては相続財産に足し合わせなくてもよくなり、将来相続が発生した時に、非課税枠で贈与した分は相続財産に足し戻さなくても良いことになりました。それにより相続税の節税が可能になり、累積贈与額が2,500万円を超えない範囲であれば、年間110万円までは贈与税がかかりません。
つまり、持ち戻しをする必要がなく、暦年贈与のように3年以内の持ち戻しとか 7年以内の持ち戻しというように相続財産に組み入れる必要がないので高齢の祖父母や父母の死期が近くなった状態だったとしても相続時精算課税制度を使って相続税の節税ができ、しかも110万円以下の贈与の場合は申告をする必要がありません暦年贈与を超えて使える部分ができたとともに手続きも簡易的なので令和6年1月 1日以降の相続対策では有効な選択肢の1つとなります。
暦年課税制度と相続時精算課税制度どちらを使うか?
ざっくりと判断すれば、暦年課税が有利に働く人としては相続税が多額にかかる人のうち、7年を超えて亡くならないであろうと思われる人(健康で長生きであれば、何十年にわたり110万円以内の贈与を続けられるので)。
逆に、相続時精算課税制度が有利になる人としては、元々相続税が掛からない人や相続税が少額である人。もしくは、7年以内に亡くなる心配がある人が選択すると有利になるので、相続税の発生割合が8.8%(2020年度)からすれば改正後に多くの人が選択するケースが増えることと思われます。
【 まとめ 】
相続時に対する節税方法は財産(不動産・株式・動産等)が多岐、多種に渡り複雑に絡み合いそれぞれの個別の財産だけだは無く、全体最適を考えた節税方法の選択を求められます。従って、暦年課税制度と相続時精算課税制度について、どちらか一方的に短銃に決めることは一概にここでは言えませんが確実に言えることは「相続に強いプロの税理士」を見つけて相談することに尽きると思います。
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